自転車でおいで
重里 糸井
○月×日雨のちくもり
僕はだれかを好きと書く
それがだれかはわからない
窓の外を犬が歩くてゆく
黒いはな黒いあし
いつもひとりでいる犬だ
知らないあなたに会いたいな
自転車でおいでよ
僕の家はすぐそこだよ
とうふ屋のかどから四軒め
○月×日晴れのちくもり
僕はだれかがだれかを知る
そして名前を書いてみる
庭の池を猫がのぞいている
小さな猫小さな水
いつもおなかをへらしてる
いつかはあなたに会いたいな
自転車でおいでよ
僕の家はすぐそこだよ
牛乳のあきびんがめじるしさ
自転車でおいでよ
僕の家はまだあるのさ
朝日と夕陽があたる家